ん》に堪えない事もあるのである。
 私がもし、急に明日から金閣寺で暮すという身分にでもなったとしたら、私は直ちにパンタロンは紙屑屋へ売飛ばして衣冠束帯で身を固めるであろう。
 先ず花の下には花の下の味があり、鉄管の中にはまた格別の世界があるのに違いない。何に限らず住み馴れたらまたなつかしい故郷となるものだろうと思う。
 今の処、何んといっても私が思う存分の勝手気ままを遠慮なく振舞い得る場所はただ一枚のカンヴァスの上の仕事だけである、ここでは万事をあきらめる必要がない。私の慾望のありだけをつくす事が許されているのだといっていいと思う。
 画家というものがどんな辛《つら》い目に会っても、悪縁の如く絵をあきらめ得ないのも無理のない事かも知れない。

   芝居見物

 大阪の芝居見物は何かものを食べながら、話しながら、飲みながら、その間に時々舞台を見ているようである。もの見遊山というのは芝居見物のことだと私は子供の時から思っていた。
 私の父は芝居、遊芸道楽に関することは何から何まで好きであったから、私は人間の心もちも出来ていない幼少の時分から芝居へはしばしば出入りした。そして何かたべながら
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