のであった。
 大阪地方は言葉そのものも随分違ってはいるが、一番違っているのは言葉の抑揚である。それは東京弁の全く正反対のアクセントを持つ事が多い。上るべき処が下り、下るべき処が上っている。
 たとえば「何が」という「な」は東京では上るが大阪は上らない。「くも」のくの音を上げると東京では蜘蛛《くも》となり、大阪では「雲」となる。
 大阪の蜘蛛は「く」の字が低く「も」が高く発音されるのである。これは一例に過ぎないがその他無数に反対である。
 それで大阪で発祥した処の浄るりを東京人が語ると、本当の浄るりとは聞えない。さわりの部分はまだいいとして言葉に至っては全く変なものに化けている事が多い。浄るりの標準語は何といっても大阪弁である。
 従って、大阪人は浄るりさえ語らしておけば一番立派な人に見える。
 よほど以前、私は道頓堀《どうとんぼり》で大阪の若い役者によって演じられた三人吉三《さんにんきちざ》を見た事があった。その芸は熱心だったが、せりふの嫌《いや》らしさが今に忘れ得ない。大阪ぼんちが泥棒ごっこをして遊んでいるようだった。見ている間は寒気《さむけ》を感じつづけた。
 東京で私は忠臣蔵の
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