は口走るが、それは幸福なたわごととしてお互いに見ぬふりの致し合いをするところに、また春のめでたさもあるようである。
ある写生地の山桜の下で一人の女流画家が、春だわ、春だわ、青春だわ、と叫んで乳色の毒にあたってふらふらしていたのを見たことがあった。今でも春になるとその叫び声とその時の悪寒を思い出す。
とにかく山、河、草木、池、都会、ごみ溜、ビルディングの窓という窓をことごとくこのクリームが包んでしまうと、男の眼はガラスと変じ、若き女性からは悩ましき白光が立ち上る。
舞台では春の踊りやレヴューの足の観兵式である。白光と毒素は充満する。霞を失いつつあるわれわれも、年に一度は開耶姫の珈琲を遠慮なく飲んでおきましょう。
大阪弁雑談
京阪《けいはん》地方位い特殊な言葉を使っている部分も珍らしいと思う。それも文明の中心地帯でありながら、日本の国語とは全く違った話を日常続けているのである。私はいつか、西洋人に対してさえ恥かしい思《おもい》をした事があった。その西洋人は日本の国語と、そのアクセントを丁寧に習得した人であったから、美しい東京弁なのである。そして私の言葉は少し困った大阪弁な
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