何かの故障で芝居の幕がしまり損ねた如く、多少間が抜けたので医者を呼んだところ、医者もこんなはずはないのだが、おかしいといった。しかしまず九分九厘まではといって帰ってしまった。
その九分九厘という胴体がまた、昼めしがたべたいといい出し、晩めしも食うといい出した。
また医者に相談したが医者といえども幕の故障をいかんともすることが出来なかった。
それでは病院へでも入れますかということになって、とうとう一族の間には相談のやり直しが始まりその翌朝、大阪まで急いで行くことになった。完全に間が抜けてしまった切りである。
病院で彼女は、改めて片手と両足の骨を正気のまま鋸で切断された。医者が痛いかと訊いたらちょっと痛いと答えたそうだ。しかし医者はこれで発熱すると多分もういけないでしょうといった。もうそろそろ熱が出るのかと思っていると熱が出ないのだ。
翌朝になって彼女はまたお粥をたべた。医者はまったくこれは奇蹟です、こんな経過はめったにないことだといって感心して、安心なさいもう大丈夫ですといった。これでとうとう幕は完全にしまらぬことときまったが、それにつけても一族の胸へつかえることはこれからさ
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