している。そしてその色魔坊主を取り殺すと叫んでいる[#「叫んでいる」は底本では「呼んでいる」]。
しかしどうせもうあかんものなら病院へ入れることは無駄なことでもあるし、費用という点も至極考えねばならぬことだしするのでとりあえずまあ[#「まあ」は底本にはなし]家へ運んで置いたらよろしいやろ、どうせあすの朝までだすさかいということに話がきまった。
彼女は最後の一夜を玄関[#「玄関」は底本では「玄間」]の庭の片隅へ蓆を敷いて寝かされ呻き通した。一族は何が何であろうとも、まず一杯飲まねば助からぬということになり座敷では相談がてらの酒宴が開かれた。皆がもう朝までのことだといってその手筈をきめたにかかわらず、死骸となり切れないのが彼女自身である。蓆の上でだんだん意識がはっきりとしてくるのであった。
翌朝、彼女はお粥が食べたいといい出した。ある男はひそかにああそれがいかん、変が来る前にはたべたがるものだすと鑑定した。
しかし彼女はお粥が大変うまかったといって喜んだだけで、一向変調な顔をしないのみか多少以前より喋り出して来たものだ。その喋るというのがまたおかしいとまだ未練を残す者もあった。
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