っと坐っていたい温厚な人が尻をたたかれて、妙に浮き出して見たり、大体|喧嘩《けんか》、口論、大騒動は嫌なのだが、お隣りもやり出したので、やむをえず煮え切らない喧嘩を吹きかけつつ、神経衰弱に陥って見たり、飲めないのに飲んで嘔吐《おうと》して見たり、その他いろいろ様々とやって見る。しかし、要するに皆その人柄相当の事でさえあれば見ていても心持ちはいいけれども、柄にない事をうっかりやらされていたりする事は甚だ気の毒に見えるものである。
 太い眉《まゆ》を持った女が、なお眉へ彩色を施して、何かびっくりしたような眉を作って電車に乗っていたりする。しかしその心根は皆、日本をよくしよう、自分の芸術をよくしようといういじらしい願いから起る事だから、私はその心根に対して尊敬と同情を持たねばならぬであろうと考える。ただ少し知慧《ちえ》と剛情という意地の不足が気にかかる。



底本:「小出楢重随筆集」岩波文庫、岩波書店
   1987(昭和62)年8月17日第1刷発行
   「小出楢重全文集」五月書房
   1981(昭和56)年9月10日発行
底本の親本:「めでたき風景」創元社
   1930(昭和5)年
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