っていい。そのくだらぬ事ばかりがなかなか生きている。

 蜻蛉《とんぼ》の羽根と胴体を形づくる処のセルロイド風の物質は、セルロイドよりも味がデリケートに色彩と光沢は七宝細工《しっぽうざいく》の如く美しい。あの紅色の羽根が青空に透ける時、子供の私の心はうれしさに飛び上った。そしてあの胴体の草色と青色のエナメル風の色沢は、油絵の色沢であり、ガラス絵であり、ミニアチュールの価値でもあった。
 私の夏は蜻蛉《とんぼ》釣り以外の何物でもなかった。夕方に捕えた奴をば大切に水を与え、翌朝は別れをおしんで学校へ行くのだ。学校では、蜻蛉の幻影に襲われて先生の話などは心に止まらない。
 ある時、算術の時間中、私は退屈して、蜻蛉が、とりもち[#「とりもち」に傍点]竿《ざお》でたたかれる時の痛さというものについて考えつづけた。竿があの草色のキラキラした頭へ衝《つ》きあたった時は、どれ位いの痛さだろと思ってちょっと頬《ほっ》ぺたを平手で試《た》めして見た。も少し痛いかと思って少し強く叩《たた》いて見たがどうもまだなまぬるかった。とうとう私は夢中になって私の頬《ほお》をぴしゃりと強く打ったものだ。忽《たちま》ち静
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