の白粉を耳のうしろに残したままやって来て、時々胸を開《あ》けて見せたりした。覗《のぞ》いて見ると白粉と交って、紅色の沁みが一面に残っていた。何んでも、殺される役なんだ。
私は、何か、気味の悪い奴だと思うと同時に、私よりも大分えらい子供かとも思って見た。
宗右衛門町から通って来る娘で、紺地に白ぬきの上《あが》リ藤《ふじ》下《さが》リ藤《ふじ》の大がらの浴衣《ゆかた》を着たのが私を恍惚《こうこつ》とさせたものだ。それが悩ましいためか何かよくわからないながらも、何しろ大変気にかかってしようがなかった。今にこの浴衣の模様を忘れない処を見ると、随分心に銘じたものと見える。
記憶といえば妙なもので、小学校、中学校で何か一生懸命に試験勉強したけれども、その辛《つら》かった事だけは覚えているが、さて何を記憶しているかと思うと、悉《ことごと》く忘却してしまっている。しかも忘却してどれだけの不便があるかといえば何事もない。何かの必要上、あれは何世紀の出来事だったかを調べるには、簡単に書物は備っている。訳はない。
さて私たちの心にこげついて根を一生にのこす処のものは、日常のくだらぬ事ばかりであるとい
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