も[#「母も」は底本にはなし]息子《むすこ》も、丁稚《でっち》、番頭、女中に至るまで、店先きへ吉原《よしわら》の如くめかし込んで並ぶのである。今とちがって、いくら並んでいても町幅が狭い上に、電車とか円タクがこの世へ姿を現わしていなかったから街路は暗く、長閑《のどか》なものであった。
 この長閑な町内を、自慢の地車やふとん太鼓が、次から次へと囃《はや》し立て、わいわいとわめきながら通るのである。私などは、この囃子が遠く聞えて来ると胸が躍《おど》ったものである。その地車の後から近所の娘たちがぞろぞろとついて行くところは、まだ何んといっても、徳川期の匂《にお》いを多量に含んでいたものだ。
 しかし徳川期の匂いも今考えると徳川期だけれど、当時の私にとっては、決して有がたくも何んともなかった。ただ周囲の様子が尋常でなく興奮しているのと、地車や何かが通るのがうれしかったのだ。
 かような騒ぎはうれしかったが、困ることには、私は父の命令によって、いやに儀式ばった挨拶《あいさつ》を来る人たちへ強《し》いられたり、着たくもない妙な仰々《ぎょうぎょう》しい着物を着せられるのであるそれが泣くほど辛《つら》か
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