位の痛さはあるだろう。そんな場合、死んだ真似をしてしばらく寝ているに限る。すると鹿は強いギャロップ勇ましく悠々と引き上げて行く。
 五、六月、青葉の頃には日に何回となく私は人の悲鳴を聞いたことさえある。ある時は家族づれのうち老婆がやられた。老婆は倒れながら自分の腹の下へ孫を隠した。鹿はその上に乗りかかって両足で敲いているのだった。大勢のものが駆けつけたので鹿は去ったが、その家族は遊びをやめて帰ってしまった。その後老婆は発熱して四、五日寝たということだった。
 ある朝、私が顔を洗っていると宿の人が呼びに来た。今、鹿が産気づいています。早く見に来なさいというのだ。私は産というものは一切見たことがなかったので、早速見物に出かけると鹿は近くの馬酔木のかげへ寝て、眼に苦悩を表していた。なるほどその腹は波を打っていた。
 大よそ[#「大よそ」は底本では「およそ」]二〇分ばかりすると、鹿は急激に立ち上がって四つの足をふん張った。すると何か透明な水がさっと一升程も飛んだかと思うと、やがて黒い風呂敷包みの如きものがどさりと草の上へ転がったものである。鹿はその風呂敷を丁寧に食べてしまうと、その中からもっと
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