、その他、シネマのプログラム、電車やメトロの切符、絵ハガキ、手紙その他雑然とつまっているのである。私はそれを一つ一つ取り出しては眺め、しかる後元の如く丁寧に収めてしまう。そして蓋をするのであるが、蓋をするとまた間もなく開けて見たくなるのである、幾度開けて見ても同じものが現れてくるのにきまっているにかかわらず私はついこのトランクの前へ立ちたがるのである。
こうして雨と退屈と、金のない半日などを暮すことは、真に安全にして適当な楽しみだと称してよろしいかと考える。
3
パリのトランクでふと思い出したことであるが大体において泥酔者というものは、ねえ君、俺はちっとも酔ってはいないだろうと弁解したりわけのわからないことを幾度も喋るものである。ヒステリーの女は自分が今ヒステリーを起こしているとは考えないし、気狂いは正気だと主張するし、怒っているものには君は怒っているというとなおさら怒るし、まったく厄介なものである。
私は今となって私の短い滞欧中のことを考えると、私は日本を出てから日本へ帰るまで殆ど狐か天狗にでもつままれた如く、私の心は妙なところへ引懸っていたように思えてならないので
前へ
次へ
全237ページ中142ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング