て、私の大型のトランクを開けてみる。そのトランクの中には私がパリから持ち帰ったあらゆるものがなるべくそのままつめ込んである。蓋を開けるとナフタリンと何か毛織物の持つ特殊な外国風の匂いとが交ってパリの下宿にいた時の空気が今なおなつかしく立ち昇って来るのを感じる。
私はトランクの中へ頭を突込んでこの匂いを嗅いでみる。するとインド洋からポートサイド、マルセイユ、パリ、ベルリンが鮮やかに私の鼻から甦ってくるのである。
トランクには三段の仕切りがある。それを一段ずつ開けて行くといろいろのものが現れて来る。だがしかしあまり立派なものはさらに出てはこない。まずワイシャツ、襟巻、靴下、それからマガザンプランタンやルーブル辺りで買ったシュミーズやピジャマ[#「ピジャマ」は底本では「パジャマ」]、年末の売出しで買った赤や青の美しい小切れの類、あるいはノエルの夜店で漁った古道具、モンマルトル辺りで買った人形や古時計、荒物屋のカンテラ、カンヌの宿でつかっていたランプ、ニースのカーナバル[#「カーナバル」は底本では「カーニバル」]で使うマスク類、レース、ガラス玉、煙草入れ、三つ揃い八〇フランという仕入れ洋服
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