らは煙草屋が全部影を消してしまった。看板も目につかなくなった。
 煙草をやめてから五、六年になる近頃、妙にまた煙草屋が目につき出し、絵で疲れた時、煙草のことを考え、客に対してちょっと一本下さいと無心をいってみたりすることがある。これはいけないと自らを戒めているが、心の底のむすび目が多少ゆるんでいるような気がするのである。
[#地から1字上げ](「みづゑ」昭和二年八月)

   秋の顔

 秋になって、私は人間の顔が紅葉したのを見たことはない。しかし木の葉が凋落する如くわれわれの毛髪は多少脱落はするようである。ことに貧弱ながらも生きている私などは夏から秋へのつぎ目の季節を嫌に思う。折角大切にしていた皮膚の脂気と、貧しくもめぐっていた私の血液が、腹の奥底へどんどんと逃げ去って行く心地がする。何か冷気を含む秋の風は下腹をしくしくと悩ます。ことに時雨と木枯しは情ない。
 しかしながら、健康で大丈夫な他人は秋風によって食慾を増し、馬も、人も、女も、肥太るという話である。羨むべきことである。

 最近十日あまり私は上京していて、帰ってみて驚いたことには、私の大切にしていた銀が(銀は真白な猫である)
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