何十枚観賞しても結構だが、自分の力以下の絵を日に一枚ずつ見てさえも地獄へ陥ちて行く気がして堪らない、すでに私は地獄行きの切符を買って帽子のリボンへはさんでいるようだ。[#底本には、続く改行と1行空きはなし]

 思う仕事が思うように行かない時など酒を飲むとか、やけ糞に煙草を一箱のみつくすとか出来る人は幸福だ。酒も煙草ものめない私は時に重たい椅子を床へ投げつけてみることがある。思ったより力があるんだなと友人はそれを聞いて感心した。
 煙草はまったくいいものだ、ちょっと一服することによって世界がはなはだ新鮮になる。他人と話をしている時煙草は両人の顔と顔との[#「顔との」は底本では「顔の」]間へよろしき煙幕を張る、それを通して相手の顔を眺めていることは、大変のびやかで話もらくに出来るようだ。私が医者から無理にやめさされた時、一番辛かったことは、話相手の顔があまりはっきりと真正面に見えることだった。それから町を歩くと煙草屋が多過ぎることであった。一町内に必ず一つ位はあの赤い小判形の中のたばこという黒い字が目につくのであった。完全に煙草を忘れるのに一年位はかかった。煙草を忘れてしまうと同時に町か
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