がある。多少神経がまがっている時などこの言葉を聞くと、理由なしに腹が立ってくるのである。もし細君がこの言葉を発したら、到底ああそうかと亭主は承知する訳には行くまいと思われる位だ。「あなた、いけませんやないか」などいわれたら、何糞《なにくそ》、もっとしてやれという気になるかも知れないと思う。妙に反抗心をそそる響をもった言葉である。
こんな不愉快な言葉も使っている本人の心もちでは決して亭主や男たちを怒らせるつもりでは更にないので、あるいは嘆願している場合もある位である。嘆願が命令となって伝わるのだから堪《たま》らない。
笑っているのに顔の表情が泣いていてはなおさら困る。
葬式の日に顔だけがとうとう笑いつづけていたとしたら、全く失礼の極《きわ》みである。何んと弁解しても役に立たない。
もしこの言葉と同じ意味の事柄を流暢《りゅうちょう》な東京弁か、本当の大阪や京都弁で、ある表情を含めて申上げたら、男は直ちに柔順に承諾するであろうと考える。
全く、気の毒にも、今の若い大阪人は、心と言葉と発音の不調和から、日々|不知不識《しらずしらず》の間に、どれだけ多くの、いらない気兼ねをして見たり、
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