から私は大阪人の講演では、大阪落語だけ聞く事が出来る。それは本当の大阪弁を遠慮なく使用するがために、話が殺されていないから心もちがよいのである。

 ある、いろいろの苦しまぎれからでもあるか、近頃は大阪弁に国語のころも[#「ころも」に傍点]を着せた半端《はんぱ》な言葉が随分現れ出したようである。
 例えば「それを取ってくれ」という意味の事を、ある奥様たちは頂戴《ちょうだい》という字にいんか[#「いんか」に傍点]を結びつけて、ちょっとそれ取って頂戴いんかといったりする。
 勿論《もちろん》こんな言葉は主として若い細君や、職業婦人、学校の先生、女学生、モダンガアル等が使うようである。
 それから「あのな」「そやな」の「な」を「ね」と改めた人も随分多い。「あのね」「そやね」「いうてるのんやけどね」等がある。
 少し長い言葉では「これぼんぼん、そんな事したらいけませんやありませんか、あほですね」などがある。
 これらの言葉の抑揚は、全くの大阪風であるからほとんど棒読みの響きを発する。従ってこれというまとまった表情を示さないものだから、何か交通巡査が怒っているような、役人が命令しているような調子
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