私は私の故郷から五里はなれた、私の中学時代を過ごした小さな町なる三次というところまで迎えに出ました。私はプラットホームを、群れをなして出て来る、田舎ものばかりの群衆のなかに、美術家らしい様子をした、帽子をかぶった、正夫さんをすぐ見つけました。そこですぐに涙が出ました。正夫さんは私の手を握りました。私たちはどうしても感傷的にならずにはいられませんでした。それから二人は馬車にのって五里の間を、森や畑のあいだを、お互いの言葉を吸い込むように、よろこび味わいながら、語りつづけて、火のともる頃に私の家の前に着きました。
その夜、私の家族を紹介したり、町端れの河ばたを妹と三人で散歩したりしました。その時私たちはあなたのことをどれほどお啾《うわ》さし、一緒にいらっしゃるのならいいのにと思ったか知れませんでした。月のない河のほとりの草の闇《やみ》に螢なども飛んでいました。私たちは秋からは上京して、みんな、朝夕、往復することができるたのしさなども語りました。
私たちはこれから一と月足らずの間は正夫さんと毎日一つ家でたのしく暮らされるのです。ながいあいだ、私をいたわり、はるかなるいのりを送っていてくれ
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