ざいますから。
ここに仮住居《かりずまい》を定めてからの一週間は何の目に立つ事件もなく過ぎました。私はたいてい部屋で書物を読んで暮らしています。今日は旧正月一日で、この辺はみな旧でお祝いをいたします。今日午後私は海上一時間の航路で姉の家に行きます。そして二、三日その家で暮らして、帰りに姉をつれて来ます。その時にまた書きましょう。正夫君によろしくいって下さい。私の心はこの頃また池州《いけす》に生《は》えた葦《あし》のように小さく揺らぎ出しました。魂は小さな嘆きと、とこしえなるものへの係恋とに伏目がちになっています。[#地から2字上げ](久保謙氏宛 一月二十六日。鞆より)
霊の生活へ
雑誌たしかに受け取りました。ありがたく存じます。私の文章の処置についてはともかくもあれでかまいません。安心して下さい。私のからだは日に日に快方に赴きますから喜んで下さい。この頃は永遠への思慕を痛切に感じて読んだり考えたりしています。女の内容なき幻であることは私に非常にたしかになりました。私は女によりての生命の興潮を重く見ません。私が女に赴いたほどの純熱を捧げて私は霊の生活の奥へはいって行きたい。
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