んか。
私の宿の近所は色街《いろまち》で、怪しげな灯影《ほかげ》に田舎女郎《いなかじょろう》がちらちらしています。衰えた漁村の行燈《あんどん》に三味線の音などこおりつくようにさむざむと聞こえます。近状知らせて下さい。
[#地から2字上げ](久保謙氏宛 一月二十三日。鞆より)
「恋を失うたものの歩む道」の原稿
あなたの手紙が須磨から廻って参りました。何しろおもしろくないでしょう。今少しすれば自由な大学へ行かれるのだから、しんぼうなさい。原稿のことは実に不愉快で私は掲載したくありませんが、私は何よりあなたに気の毒ですし、今私はだれびととも争うたりなどすることを欲しませんから、どうでもよろしいようにして下さい。事を荒立てることは、やさしいあなたに対して、私は忍びません。どうでもよろしゅうございます。ただなるべく削除したところはブランクにして書き入れられるようにして下さい。そして私の原稿を手数ながら送り返して下さい。それは私の親しい両三名の人に、全体の文を読んでもらいたいと思うからです。雑誌へは削除した旨を、付記しておいて下さい。片輪のものを完全のものとして評されることは苦痛でご
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