としてる時に、ひとりの従弟《いとこ》が訪《たず》ねて来たのでそのくわだては行なわれませんでした。今夕従弟は別府を去りました。そして雨のしとしと降る音を近頃になくしみじみした親しみのある心できくことのできるような気分が訪れました。私は従弟を波止場まで送って帰り妹と雨に煙る街《まち》のともしびを見ながらなつかしい淋しい話をいたしました。もう一週間すれば別府を去ることや、病院のことや、あなたたちのことや、ふる里の母のことなどを、そしてことに私のひとりの妹のこの頃の苦しい煩悶について二人は胸をいためつつ語りました。その後で私はあなたにしみじみと手紙の書ける心地に訪れられてこのように筆を執りましたのでございます。
あなたは今頃はどうしていらっしゃるでしょう。おおかた読書していらっしゃるか、創作にいそしんでいらっしゃるかでしょうと思われます。あなたの勤労には私は敬服のほかはありません。あなたはまれなる精力を持っていらっしゃるように思われます。「白い部屋の物語」でその一部分のうかがわるる永い永い小説はまだ五章が終わっただけと承わりましたが、それができあがるのをたのしい、大きな期待を持って待っていま
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