家ほど純潔であらねばならないものがありましょうか? 魂をはずかしむるものは詩人ではありませんと思います。私は「青と白」のヒーローの歩み方を祝し、その前途を期待し、そこに善良な、博大な、そして愛も、欲求も、知能も、音楽的に精化された諧和ある人間を待ち設ける心地がいたしました。私はこの一週のあわただしきなかにも暇さえあれば、「青と白」を読み、そして終りまで読んでしまいました。そして少なからず感心しました。
 この真のリファインメントのある作品を早く出版して、荒々しい今の読書界に提供したいものだと思いました。澄子を送る別れのあたりの描写などは、実に貴族的にデリケートな芸術的天分が現われていました。一体が音楽的な感じを与えました。そしてその背後に人心の深き自由なる「善」の意識が常に伴のうていたのは限りなく悦ばしく感じました。私は表現の技巧についてはあなたたちの前には何も申上げる柄ではありません。ただ読み終わって善良な高尚な印象を残されたことを感謝します。
 しかし「青と白」の少年は自らの事を語るのに少しく優越の感じを持ち過ぎたように感ぜられるところもありました。もとより自由な純な心持ちでならば
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