誇ることさえも善良に聞かれるものですけれど、どこともなしにアイテルな感じのするところが少しはありました。けれどそれは正夫さんには意識的でなくてシャインバールなものと存じます。私は私の生い立ちと「青と白」の少年の生い立ちとも比較して考えてみました。そして私などは世間的な意味で幸福な、そしてしたがってフリーヴォラスな少年時代を送りました。私は淋しい深いそしてロマンチックな空想的な詩人らしい「青と白」の主人公の少年時代を尊く優れたものと思いました。けれどこの少年は物を掘りうがち動かしゆるがす力が足りないようにも感ぜられました。
「青と白」ほどのものを書きうる人は今の日本の文壇にはちょっとないと思います。フランシスの翻訳などとともに早く出版の運びにしたいものと思います。正夫さんの絵は兄妹の仮住居の部屋を飾るために、しばらく持たせていただきます。この春には絵を描きなさるそうですがぜひ私にも見せてほしいと思います。謙さんが今度書かれるという長篇のできあがるのを子供の出産を待つような心でうれしく待っています。私はこうして友もなく学校もなく劇場も展覧会もなき地に病気ばかりしていますけれど、神様は何か私
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