と、澄んだ叡智《えいち》とに輝いた便りを下さった時、また湖の畔《ほとり》の旅館からの静かな心をこめた手紙、また母上を東京に送って行かれて帰られた時の手紙など、感動と非常に親しいいきいきしたシンパシーとをもって拝見したのでした。あなたがそのようにも孝心深く、老いたる母上をなぐさめいたわりなされたことは、かつて別府にいた頃、あなたの手紙でよく知っている母上のことを思い出したりして、美しくそして称讚にみちた心で二人で旅しておられる様子などを心に描いたのでした。
私はあなたの温かい人間的な愛情をあなたの母上に対せらるる行為において最もウィルクリッヒに感じます。(他の場合では私はあなたについてどちらかといえば超人的な意思と叡智とを感じるほうが多いのですが)私がこんなに御無沙汰したのは全く私が悩んでいたからでした。なにとぞお許し下さい。しかし今は努力ののち心の平静を取返し、進むべき途がはっきりと見えてきましたから安心して下さい。
私は急に東京のほうに引き越す決心をしました。そして二十七日の午後七時、神戸を発する汽車で上京の途につきます。大森に艶子とともに住むことになりました。お別れするまでに一
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