じて下さい。実はこの前有島さんたちといらっして下さった時に話し過ぎたので、後で疲れが出てその恢復に一週間ばかりかかりました。本当に病気は対人関係の慰めと餐《もてな》しを稀薄なものにしてしまう点で最も苦しい気がします。そして私のように溺れやすい者にはことに苦しいことです。
「歌わぬ人」は一幕物でなるべくなら発表したくなかったほどつまらないもので「俊寛」だけでは薄いのでいやいやながら添えたのですから期待されると困ります。ではお眼にかかっていろいろ話しましょう。ちょっと急いで返事だけ書きました。
[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 六月十一日。明石より)

   ゲーテの「親和力」

 その後心にもなく御無沙汰してしまいました。あなたから心をこめた手紙をたびたびいただいてそのたびごとに、私からも手紙を書きたい衝動を強く感じながら、私の心がある事件のために打ち砕かれて、深く苦しんでいたので、しみじみとお手紙を書くだけのゆとりを得るまでに力なく乱れてしまったので、今日まで手紙を差し上げることができなくて本当にすまなく思っています。
 ことに上州の山の中の小屋で私を思い出して下さって、あの深い孤独
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