で芸術の仕事にたずさわりたいと思います。
 この世の希望はことごとく私から去りました。しかし私はもうそれを悲しみますまい。昔から人生の無情から深き知恵に達した、聖者たちの淋しき道を分けゆこうと思います。どうぞ私に変わらぬ静かな愛を終わりの日まで送って下さい。
 今日はやっと表記だけ私が書くことができました。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 中村病院より)
[#改ページ]

 大正八年(一九一九)


   久保正夫氏宛

 先日は久々で、お目にかかってうれしく思いました。
 私は二十三日の夕方当地に参りました。ここは淡路島のすぐ前に横たわっている浜辺で、眼の下を船がたくさん通ります。単調ではありますが、海のない京都に住んでいられる貴兄には、一日のリフレッシュメントになるかと思います。
 まだ、引き越したばかりで、取り乱れていますけれど、いらして下されば、喜びます。熱は少しありますけれど、用心深く話せば、さわるようなことはあるまいと思います。いろいろ書きたいことがあるのですが、おちつきませぬからお目にかかった時にゆずります。あまりくどくいう事はかえって貴兄の心に適わないかと思いますので
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