頃はどうして暮らしていらっしゃいますか、相変わらず熱心に勉強していらっしゃることと思います。何か書いていられますか、暑さがさわりはいたしませんか。
私はこの頃は大分心よくなりましたから喜んで下さい。けれどまだ読み書きも歩行もできません。しかし危険な時期を通過した、やや安らかな気持ちです。苦しみも悲しみも忍び受ける、淋しい心地はいよいよたしかに私の基調となってゆきます。その地に立ってしかも世界のさまざまの Irrungen を眺め、しかし冷やかに傍観するのではなく、それを人間の分として、淋しく受けとるような気持ちで見ている姿です。私はやはり心の静けさ、というものが、一番尊い幸福であるように思います。そして死は永久安息を私たちに与えてくれるのではありますまいか。
私は死のねがい、あこがれ、というような気持ちがしだしました。墓場こそ私たちのもとめている本当の幸福があるのではありますまいか。私は自分の墓を生きているうちに建てその墓もりとなっているような気持ちで、これから後の生涯――それは必ずながくありますまい――を過ごすつもりです。常に死を待つ心地で。そして健康が許すなればそのような気持ち
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