久保正夫氏宛

 ながらく御無沙汰となりましてまことにすみませんでしたがどうぞお許し下さいませ。
 先日は脚本を頂戴いたしましてありがとうございました。早々お礼を申し上げねばならぬと心にかかりながら、どうも病気がよくありませんので、そのほうに手をとられまして手紙かくことができませんでした。
 この頃もやはり三十八度八分の熱は午後に出ますので困っております。それに食欲がだんだん減退しますので、心細くていけません。江馬様にお礼が申し上げたいのでございますが、今どうしてもしみじみとした手紙が書けません。どうぞこの場合何もかもお許し下さいますように、あなたからよろしくお伝え下さいませ。みな様へすまないと思う心にせめられています。どうぞ許して下さいませ。少しく快くなりましてからお手紙がかきたいとばかり思っています。
 日増しに暑くなりますからお体お大切に暮らして下さい。もう近いうちに「出家とその弟子」の本ができますから、そしたらあなたと江馬様に送りますから読んで下さい。
[#地から2字上げ](中村病院より)

   墓場にこそ幸福はあれ

 ずいぶん御無沙汰いたしました。あなたはこの
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