暮らしなさい。さようなら。
[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 一月一日。丹那より)

   春知らぬ従妹への同情

 あなたの一月三日出のお手紙を読んで私はあなたの細々とした御親切に深く動かされました。あれを読んでいると、あなたが心から私を愛しそして憐れんでいて下さることがよく現われています。そして私は、私の作の発表の便宜がたとえ与えられなかったにせよ、私はその愛で十分だという気がしきりにしました。
 私は私の心があせっていたのを感じました。そしてそれは私のような地位にいるものには無理はないとはいえ、純粋な芸術的衝動を濁すものと思いました。
 あなたは「青年」や「母たちと子たち」や、短篇集や、すぐれたものを幾つも発表する機会をまだえないで忍んでいられるのに、私はなぜ作品を公けにすることを急ぐのか? そのような機会があってもなくても、創作活動はそれとは独立に起こるのではないか。私は黙っていい作を創ろうという気が強く動きました。そして私は愛と祈りと仕事との生活を今までのとおりに忍びをもって続けてゆけばいい、その必然の道筋で私の仕事が民のものになるだろうとは思いました。その時私はすぐに、私
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