に、お絹さんは私の室にもはや訪れられないことになってしまいました。
不幸な私の愛すべき友を私から奪って何の役に立つのでしょう。私はその事件のために悲しく傷つけられて今朝寝台の上でしおれていました。その時にあなたの小包が届きました。私は開いてあなたの自ら描かれた絵を見た時に涙ぐまずにはいられませんでした。そして優しきあなたの心を悦び神の恵みをほめました。ありがとうございました。私は絵はかけませんけれど見るのは非常に好きです。そしてあなたの芸術的天分を祝しました。少年の時描かれた白根山のスケッチやファンタスチッシュな樹下に女の横臥してる下絵など好きでした。ことに私の心に適うたのは湯本路のしぐれでした。私はしばらくの間懐かしき芸術的感動のなかにあり、そしてしあわせな思いをいたしました。私も東京に行ってあなたや謙君らと朝夕往復できたらと思いました。私はあなたの絵を肺の重いあわれな病友に、私の付添婆に持たせて見せにつかわしました。しばらく私の手元に置かして下さい。大切に保存しておきます。入用な時はいつでもお返しいたします。あなたの書かれたエッセイをなにとぞ送ってください。
私のことばかり書き
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