がりに来る人を待ったでしょう。お絹さん(その看護婦の名)は私に、初対面の日からよく触れました。私はその女の苦痛を経て来た半生、そしてそれにもかかわらずのんびりとした単純な、そして深い高尚な思想に感動することのできる心をめでました。お絹さんは四、五日ばかり毎日来ました。そして私の話を実に悦んできき、そして注意深き聡明な性質を示しました。それから十日ほどは働きに市内の患家に行きました。私は熱心に愛をもって不幸な病人のために働くことを勧めました。十日の後お絹さんは働きを終えて悦び勇んで私のそばに来ました。私は彼女を祝しました。それから五日ばかりまた毎日来ました。彼女は私を信じ愛しそして私の魂のなかの私の誇る(よき意味の)部分に触れてくれました。私は宗教的空気のなかに彼女を包んで愛しました。そして彼女とともに讚美歌を唱い、祈り、食事を共にしました。ああこの五、六日の間私は彼女の単純な自由な快活な心に温められ、まじめな熱い祈祷に感動させられ、どんなに久しぶりに幸福な生活を味わったでしょう。しかるに久保さん、病院の他の人々は猥《みだ》らな、卑しい眼で二人を見ました。そしていろいろな不愉快な事情の後
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