れたような、深い魂の境涯に入りたく思います。今のところではまるでほかのもので支配されています。財産が少ないといっては驚き病気が進んだといっては嘆き、惨めなものです。自分のつまらなさにあきれます。では今夜はこれで失礼いたします。乱れた手紙ばかり書いてすみません。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 庄原より)
瀬戸内海の漁村に「出家とその弟子」を執筆す
かなり長い間手紙らしい手紙もあげずに失礼しました。あなたの日光からのハガキと今度のお手紙とを私は広島で見ました。実は私はあの後健康がおもしろくなくて、広島に診察を受けに来ました。医者は今が大切な時期であることを警めて、私にこの冬期を温かい海辺で過ごすように勧めました。で私は四、五日前にここに来ました。ここは広島湾の東南部にある小さな漁村です。温《あたた》かくて静かです。私はとある裕福な農家の二階を間借りをして、お絹さんと二人で暮らしています。ここに移ってからは私の病気は大分よいようです。晴れた日には広い畑に出てなれぬ仕事、稲こぎや麦蒔《むぎま》きなどの手伝いなどもできるくらいになりましたから、あまり心配しないで下さい。
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