私も入り込まねばなりません。それが実に忌まわしい事情になっているのです。私はどれほど心を傷つけられたかわかりません。しかもまだ解決できないのです。それからお絹さんの問題がまたすこぶるいやな事情になっているのです。私は人間の醜さはどれほどまでか私などの思っているようなものではないと感じました。私は知恵がありません。悪魔を見破る力がありません。そのような事情のなかに、私は来春は父にならねばならないのです。このことがまた私を非常に悩まします。私はさまざまなことを道徳的に考えるとほとんど頭が支えきれなくなりそうです。私は後悔や、憤怒や、怨恨や、自責や、そのような呪わしき感情の連鎖の内に私の拙なき運命を嘆息しています。地上の醜悪と窮乏に打たれて天を仰ぐばかりです。今のところでは私の考えは少しも具体的にまとまりません。ただ私はそれらのゴタゴタの向こうに涼しき世界を喘《あえ》ぎ求めています。その世界にいこいの場所をつくらねばならぬと感じているだけです。どうしてよいのかわかりません。私が病身でさえなければと幾度思うかしれません。すべての徹底した解決はみな私に経済的独立を必要とさせます。
しかし私には
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