の頃健康のことを非常に気にかけています。昨年頃まで平気で散歩していた同病者が今年になって相次いで死んだのを見たり、私の二人の姉の同じ病気でのこの夏の死を目撃した私は、私のからだのことを気にせずにはいられません。私は不安になります。私には死の用意もなく肉体的苦痛に対する覚悟もありません。まだ死にたくありません。今に散歩もできなくなりはしまいかと思うとなさけなくなります。だれに訴えたとていたし方はありません。自分で苦しむほかはありません。私はこの健康の怖れのために大分心を圧しつけられています。私に取っては存在を脅かされる重要なことなのですからやむをえません。このような精神的内容のない要件で心を占められるのはつまらないとは思っても、私は毎日その不安から離れることができません。私は養生をしようと思ってもさまざまの事情がそれを妨げるのでできません。
 私の家には複雑な問題が起こっているのです。私の家にはかなり多額の負債があるのです。父は私にそれを隠していたのです。その整理をしなくてはなりません。それから養子(姉の夫)の今後の方針について紛糾があって、それはいやな現実的な利害問題のゴタゴタのなかに
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