ぬように祈ります。天香さんは秋田から、平常の天香さんとも思えぬような淋しい悲しい手紙を下さいました。あなたに行き違うた残念さも漏してありました。私はあなたのために祈ります。大切にして下さい。御無沙汰を堪忍して下さい。私は今心の力を集めるために祈り求めています。私は心身の内外に多事になりました。考えねばならぬことがいくらも切迫し、それがまた一つも考えがまとまりそうなのはありません。私は来春は父になるのです。
 私が強くおちついていっさいの混雑を整理し、病気に打ち克ち、真実の道に深入りする結果に、この困難を通過できるよう祈って下さい。私は今暗いところにいますから。
[#地から2字上げ](久保謙氏宛 庄原より)

   迫り来る現実の中に

 私はまだすっきりとしない病後の衰えのなかに生きています。しかし熱は退きましたから危機はひとまず通過しました。喜んで下さい。まだ寝床は敷いてありますけれど、私は晴れた午後には散歩もいたします。今度の発熱で病気は進んだらしいのです。医者はまじめな顔をして私はもはや読み書きを断念して、花を植えたり、動物を飼ったりして暮らさなくては危ないと警告しました。私はこ
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