の生活には希望をつないでいないように見えます。人生はこうしたもの、それは何かの報いであって、墓のあなたにのみ安息を待つ心になっています。そして私の心持ちとよくあい、私の話を悦んでききました。あなたの母上といい、私の父といい、まことにいとしい身の上と思います。けれど私の父はつもる不幸を耐えてきたおかげか、人生に対するさまざまのかなしみにもなれ、心の自由と愛とを穫《え》ているようです。
私は静かななやみに練らされた心で日々の努めをはたしつつ暮らしています。からだはまず障りのないほうですが疲れやすくて困ります。肉のとらわれを脱して、高きに翔《かけ》らんとねがうたましいばかりは、ますます濡れ輝いてゆくのを感じます。深く深くなりまさります。東都の天香さんは別れて後もたびたびねんごろな励ましの手紙を下さいます。その手紙のなかには私に出家することを古えからの聖人たちの例を引いて勧めていられます。一燈園では私の亡き二人の姉のために二七日と四七日の法事を営んで下さった由、天香さんから便りがありました。本田さんは一燈園で満足して日々の労作にいそしみつつ念仏の生活を送っています。虚栄心の少ない、誠実な彼女
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