混りの経文などあげているのも哀れですが、ことに老いたる父の忍耐深く、老母のこれも遠からぬ死に脅かされているのの手あてや、家事を支配して倦むことのないのを見るときに、私は気の毒でなりません。私も気がくじけて手紙をかくのも物憂くて、こんな御無沙汰になりました。お許し下さい。
 あなたのお宅も相変わらずの不調和で、そのなかにあなたが棲《す》んでいられるのは何ともおいとしいと申すほかはありません。おつらいことと深く察します。しかし忍耐なさい、というほかあなたを幸福にする道を知らないのを悲しみます。わけてお母上をそのような境遇に置いて見ていなければならないのはやりきれますまい。ほんとについに墓に入るまでそのような重荷を持ちつづけなくてはならないようだったら、そしてそのような運命は人間のみな負わねばならないもののように私には見えだしました。やはりトルストイなどの考えたような、罰せられたる、負債を払う生活というのが人生の真の相のような気がします。私は父母に向かっても現在の不幸のなかにあって、しあわせな未来を約束することもできません。
 先日父と二人で種々と話しました。父ももはや未来のしあわせなこの世
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