つも運命を受け取る覚悟と謙遜とが必要と思います。あまり永く御無沙汰したから今日は私のことのみ書きました。姉の戒名は釈貞室妙証大姉と申します。
一片の回向《えこう》をお願い申し上げます。[#地から2字上げ](久保謙氏宛 七月二十日。庄原より)
久保正夫氏宛
お手紙読みました。
ひとりの姉を喪うて二七日の法事もすまぬうちに、尾道から今ひとりの姉の病気篤しとの電話がかかって、父はあわただしく尾道に参りました。それから三日後にその姉の死去の電話がかかりました。母は三年前に別れたきり会わないので、見舞いに行くといってたのが、急に死なれて臨終にも間に合わなかったのを残念がってほとんど狂うように泣きました。私と妹とは両方から取りすがってなぐさめかねつつ共に泣きました。同じ月に二人の美しい若い娘を失った母親を何といって慰めましょう。二、三日後に父は疲れたかなしみを耐えた顔つきをして帰宅しました。父は物静かに臨終や葬式の模様などを話しました。母はまた泣きました。私と妹とは頭を垂れて聞きました。その後の私の宅の空気は喪の感じにこめられてうち湿っています。母が夜な夜な仏の前に火をともして片言
前へ
次へ
全262ページ中195ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング