は忍びなれてはいるものの、どうして私にこんなにしつこく試みが来るのであろうかと、弱くなる時は怨めしくもあります。あなたもからだを大切にして下さい。無理をして働きなさるな。
艶子は炊事をなれない手でしています。妹のような性質の女には、炊事はよほど無意味な気がするらしいです。そのように詩を読むことのみ特別に尊いことのように考える癖は私がつけた過ちでした。私は妹に兄妹二人を養うことがいかに実なる値ある、仕事であるかを教えています。時々は妹と暮らしていることを堪えがたい苦痛と感ずるようなこともあります。愛と犠牲とに教えならされない妹は私の心を傷つけます。私はつくづくとこれまで私が妹にしみ込ませた空華なものの憧れと、実なるものの軽蔑との、むなしい教訓を後悔いたします。ここでも私は私の過失の報いを受けねばなりません。時々私は私の妹のエステーティスムスの前に、茶碗を持ち襤褸《ぼろ》を着て乞食として立って見せたい気がします。そして私は妹と私との共同生活の近き破産を予想いたします。
私はもはや私の生活の基礎をギリシア主義の上に置くことはできません。私は妹の持っているアイテルなものに反抗しなければなり
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