。私は絶望はしません。
 庄原の姉はやはり毎日発熱して危険の状態にあります。父は私には今帰るなといってきました。艶子に炊事をしてもらっています。お絹さんは一心に姉の看護をしています。先のことはわかりません。どんな不幸が落ちてきても私は絶望だけはせぬ気ですから安心して下さい。
 私もあなたもこれからですね。私たちはのんきになってはいけませんね。コケ嚇《おど》しでない、真の威力ができねばいけませんね。大切にお暮らしなさいませ。私はあなたの成長を祈っています。
[#地から2字上げ](久保謙氏宛 五月十七日。京都より)

   久保正夫氏宛

 私は、明日艶子を庄原に病篤き姉を見舞うために帰らせることに決心して、妹にその準備をさせているところであります。私と妹と急に一時に帰ると姉が自分の病気が死に脅《おびや》かされていることに気がつくことを恐れますから、妹だけ先に帰して、私は少し遅れて帰ろうと思っています。姉は今日や明日にどうというのではありませんけれど、医者も恢復の見込み立たず死期も近づいているように申されると父よりの便りでありました。私は今日まで父がも少し待てと申しますので帰省を見合わせて
前へ 次へ
全262ページ中177ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング