る責任を感じなくてもよいような気がします」
 と私に話したことがあります。これなどもいろいろな原因もありましょうが、正夫さんが大切な文字を軽く使うからだと思います。実力の上に建てられた表現ならば必ず威力を持つはずと思います。
 とにかく私たちは、願いのなかに実が足りませんね。いいかえれば、願いがまだ祈りになっていませんね。祈りの気持ちは実行的精神の最深なるものと思います。私はこの頃何だか力抜けがしたような気がして空虚でたまりません。もっと確かな歩みをしたい。それにはやはり感情のなかからアフェクションを取り去るのが第一と思います。そうすると寂しく孔雀《くじゃく》の羽根をむしったように、自分の姿が惨《みじ》めに見えるでしょう。けれど私たちの本体はそれだけにすぎないと思います。それから実体のある感情を起こして成長して行きたいと思います。でなくては私はもはや行きづまりました。進みにくくて困ります。私たちのアイテルさは、私たちの感情のなかに本丸を据えています。
 私は天香さんに衝かれてから、この頃自分の浮足なことが目に見えて仕方がなくなりました。私は不幸です。しかし「これからだ」という気もします
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