るために日々祈っております。
 もはや女は本質的に私をひきません。私の主要問題は愛と運命とです。そして強い深い一種の楽天思想です。人間の悲哀と調和と救済との問題です。
 私は武者小路氏や阿部氏の愛の思想の、まだ十分に醗酵していないのを痛切に感じます。真の愛はもっと実践的な、そして祈祷的な、かなしい濡れたものでなければならないと存じます。むしろ鈴木龍司氏の愛のほうが深く達しているでしょう。
 私はこの数日の間病友と病友との間に生じた争いを調停するために祈り、かつ働きました。そして氷雨《ひさめ》の降る夜を車に乗って奔走もしました。そしてついに平和をもたらすことができました。私の心はどんなにやわらいで、そして感謝したでしょう。
 まことに私の周囲には憐れむべき人々がたくさんおります。それらの病友のなかには私の静かな愛の言葉によって、わずかに慰藉を感じているものもあります。あわれではありませんか。昨夜も私のとなりのとなりの室には十三になる少年で、汽車にはさまれて足をくじき切断された患者が入院しました。その悲鳴はよもすがら私の眠りを破りました。その父親は気が転倒して一時発狂状態にありました。その
前へ 次へ
全262ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング