っともたのしい季節で、祇園《ぎおん》の桜も咲き、都踊りも始まります。あなたも一度は京にお越しなされませ。天香さんにもお絹さんにもお引きあわせ申します。お絹さんを、私はあわれに、いとしくおもい、仏の眼のうるおいと赦《ゆる》しとをもって、優しく、慈《いつく》しむ気でいます。お絹さんは私を玉のように大切に、守るように世話をしてくれ、いつもよく働きます。そしてその容色や才能が私を満足させてはいないことを熟知して、心の底でいつも遠慮していることを私は知っていますから、私はお絹さんを淋しがらせぬように努めています。私の、若い、おとこ心は、時としては、若い、美しい娘さんなどを見る時、お絹さんと一生共棲することを大きな寂寞《せきばく》と感じさせることもありますけれど、そのような時には私はいつも考え直します。
病院時代の物語りや、別府の船の別れや、福山警察署の別れや、一燈園での再会や、さまざまのことを思い出す時に、私はお絹さんをあわれにあわれに、思います。そしてできるだけ愛そうと思います。
一緒に暮らして感ずる淋しさは、このまま振り捨てた後で私の心を責められる気がかりより、いくらましかもしれません。
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