りません。お絹さんも私の心を察して淋しい思いに沈みます。そして「あなたは私と共同生活をしても気に入った人ができればいつでも結婚なさい」と申します。私はお絹さんの心をあわれみます。そして、もうどんな美しい女があっても娶りません。そして淋しく睦じく、二人で暮らします。四月初旬には妹も帰り、三人で京都で暮らします。そして機を見て上京いたします。あなたはこの春休みに私の新しい家にいらっしゃいませんか。春の京都を見物かたがたいかがですか。
 私はどうしてこのように病弱なのでしょう。つくづく病むものの悲哀を感じます。
 まだお寒うございますからお大切になさいませ。[#地から2字上げ](久保謙氏宛 三月二十四日。京都より)

   妹来たる

 お手紙いつもやさしく慰め励まして下さってありがとうございます。あなたは近頃|風邪《かぜ》の加減でこの前植物園で妹がお目にかかった時にもお顔の色も勝《すぐ》れなかったようにお見受けしたということですが、昨今はいかがでございますか、ほんとに大切になさいませ。私は一時は少なからず心配しましたが、お絹さんの親切な看護のおかげか、今では熱も去り、食事も進み、ほとんど常
前へ 次へ
全262ページ中158ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング