ら著しいことだけ書き送ります。実は私は明日、お絹さんと家持ちを初めます。父母の許可も得ました。この二十日ばかりお絹さんは私の下宿に来て毎日看護してくれております。私は一生|娶《めと》らず、お絹さんをそばに置いて、結婚でなく共棲を続ける気です。お互いの自由を縛らないで、隣人として相哀れみ、平和な、睦《むつま》じい暮らし方をする気です。私はこの病弱なからだを優しいお絹さんの看護の手に委ねます。そして私は思想上の師として彼女を導き、キリストとマルタのごとくあるいはむしろ乳母と病みやすき若者とのごとくに慈愛と憐憫《れんびん》とで包むように愛し合いましょう。私はお絹さんの腕に抱かれて死ぬ気です。
お絹さんは年二十六、人生の悲哀をかみしめています。もはや色香もあせています。私への愛もどこかに母らしい気持ちも伴ないます。私は今の若さでもっと若い、美しい女との華やかな結婚を思わぬではありませんけれど、もはや恋のできる心ではなし、お絹さんがあわれであわれで振り捨てる気にはなれず、何もかも運命の催すところとあきらめて、一生涯の共棲と心を決めました。とはいえ淋しい心地がして、スイートな感じなどちっとも起こ
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