ます。私は彼女をゆくゆくは妻にしてやる気です。彼女を苦しめはしませんから、安心して下さいませ。今日はこれで筆をおきます。どうぞ御大切になさいませ。「朝」と「百合の谷」は今一燈園の人が読んでいます。いつでもお返しいたします。
[#地から2字上げ](久保謙氏宛 一燈園より)
[#改ページ]
大正五年(一九一六)
離れ島にさまよう
私は今広島の南にあたる瀬戸内海の一小島倉橋島にある倉橋という漁村の淋《さび》しい旅屋の二階でこの手紙を書いています。あなたのお手紙は尾道で読みました。実富君と往復することが妨げられたという報知は、私を失望させました。そしてそのような目にあうときには、人間はだれでもその動機の世にはありがちなものとは知りながら、非常に不愉快になることを免がれがたいものです。私は何だかあなたの傷つけられた心持ちに同情せられて一緒に不愉快に感じます。自分がただ向こうの幸福を祈る心のほかにはないときに、向こうからあたかも愛するものを損う誘惑のごとくに取扱われるときには淋しいものですね。いったいに子を守る母の愛には他の人に対してえてかってなふるまいが多いものですね。H・Hの
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