母はそのようなふうに私を取扱いました。私はその時の傷つけられた心持ちを今に忘れることができません。そして私は実富君の態度にも少しく不満足を感じます。しかしあなたの手紙には少しも怒りの心持ちは現われていませんでしたのをいとしく、また尊く感じました。何事も耐え忍んで平らかな静かな暮らし方をなすって下さい。あなたはいったいに人に誤解されやすい方だと思われます。これはあなたの自由な対人態度が常人の習慣と容れなかったのでしょうか。実は私はあなたのことを多くの人がよくいわないのを知っています。そして注意しておきますが、御木本君のお姉様に与えたあなたの印象はよいものではありませんでした。私はその事を聞いた時には大いにあなたを弁護いたしました。私はあなたを不幸な、淋しい人だとその時思いました。私はあなたを愛していますから、人があなたをよくいわないのは苦痛に感じます。私はあなたに注意しておきますが、あなたが愛せられていると信じていらっしゃる人々のあいだには、ほんとうはあなたを愛しない人が多いかもしれません。信ずる心はいつでもよい心です。私はそれを知りながら、上のようなことを書かなければならないのでした。
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