が買いたいけれどお父さんが買ってくれないといいましたから、私は「西田さんはお金は幾らでもあるけれどあなたを贅沢な習慣にしないために買ってくれないのだ。それさえわかってれば私が買ってあげる」といって寺町の本屋まで行って少年倶楽部を買ってやりました。帰り道に博覧会のイルミネーションのそばを通る時、急に曲馬の楽隊の音が始まりました。少年は好奇心を挑発されたと見えて大分見たそうでした。私はこの少年は平常このようなものを少しもお父さんに見せてもらっていないことを知りました。そしてちょうどこの年頃の少年の好奇心の強い時代には苦しいことであろうと推察しました。「今晩は遅いから、みなが心配するから帰ろう、また私が見物に連れて来てあげる」と私がいうと「いいえこんなものとは縁を切ります」といいました。しかし見たそうでした。
 私は西田さんの子供の育て方はよいかどうか疑問だと思いました。「そして私のことは習ってはいけない。お父さんのいうとおりにしなさい。しかし今度曲馬を見せてあげるよ」と約束しました。昨夜もこの少年と一緒に寝ました。あわれではありませんか。お絹さんは免職になり今は広島の牧師の家に預けられてい
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