、そしてこの頃はだんだん悪くて発熱したり、せきがかなりはげしくなって、どうも病勢が進みそうなのです。この姉は私が家出すれば私の家をつぐべき大切なからだで、両親はおもにこの姉を力にしていたので、私も姉の病気については少なからず心を痛めてはいたのです。で父のいうのには、今のうちに姉を海岸の温かい土地にやって保養させたいというのです。それには女の身で病気ではあるし、ひとりはやれない。するとお前も上京すれば、四人も出ることになる。そうなれば家のうちも急に淋しくなるし、だいいち費用がたまらない。それでお前だけは、今上京しなければならないときまった用事もない身ゆえ、姉が保養して帰るまで一、二か月の間は家にいてくれ、そうすれば気丈夫にはあるし、費用もたすかるというのです。私は、黙って承諾するよりほか仕方はありませんでした。私はつねづね両親をも隣人のようにして対したいと思っています。私には何のかいしょうもないのですから、私は与えてくれる以上のものを父に求める気にはなられません。それにながい間心配ばかりさせているのですから。父はまあ姉と相談してみることにしようと申しました。私は、私としては姉が養生するあ
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