ら2字上げ](久保正夫氏宛 九月七日。庄原より)

   寮舎にまなぶ美しき妹

 先日は妹がお訪ねしましたそうですね。妹からの手紙にもあなたのお母様にお目にかかったことや昼飯をいただいたことなどかいてありました。あれも寮の生活が御存じのとおりなので居心地の悪いのも無理はないと思われます。昨日はまたおハガキ下さって私の宿のことを心配して下さって実に何から何までありがとうございます。私はなぜにあなたたちにこのように愛され、そして私の上京が、何かの大きな祝福をでももたらすかのように悦び迎えらるるのかわかりません。それにつけても正夫さん、私はまた少しく不安なことをこの手紙に書かなくてはならない事になりました。
 私は十月初めにはもはや上京することと心に定めて人々にもその旨を通知などもいたしました。
 そしてあなたのお手紙で宿も適当なのが見つかったので昨日私は父に相談いたしました。しかるに私は父の話をきいているうちにしだいに暗い、淋しい心地になり後にはもう上京したくないような気になりました。実は私の姉が肺が悪いのです。私は温泉からかえるまでは全く知らなかったのですが、私の留守のあいだに悪くなり
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