えたかったのです。
 けれどそこも乾からびた、倦怠な、貧しい村で、宿につくとすぐに私は帰りたくなりました。けれど私は三日のあいだ神に祈り、心を静め、はげましてその村で心をととのえました。「どこへ行ってもかなしいのだ」私は思いました。「私の運命を抱け、もはや私のかなしみは女を得れば癒されるかなしみではない。人間としてのかなしみで私のかなしみではない。人生の永い悲哀と運命の淋しさである。もう私は私に媚びる甘いものの影に心をひかれまい。運命を直視しよう。そして運命に毀たれない、知恵と力とにあこがれよう」私は山かげの暗い洞穴のなかで、渓川《たにがわ》の音の咽び泣くのを聞きながら、神様に祈りました。「神様、あなたは私を造りなさったとき何かの御計画があったのでしょう。なにとぞ、その計画を私の上に成就せしめ給え。あなたの地上になし給うよき仕事の一部に私をあずからしめ給え」
 私は涙がこぼれて洞穴のなかで泣きました。外に出ると驟雨《しゅうう》に洗われた澄み切った空の底に、星が涼しそうに及びがたき希みのように輝いていました。その時私はふと聖者になりたいと思いました。そして奇蹟を行なう力と、挙げられて壇か
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